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夫婦の相続税をゼロにする、配偶者の税額軽減制度とは?

相続税

佐藤 智春

制度で守る夫婦の相続

夫婦が長年かけて築いてきた自宅や貯金、保険金などの財産には、たくさんの想いが込められています。しかし、いざどちらかが亡くなったとき、この財産をきちんと守れるのだろうかと不安に感じる方も少なくありません。相続は、多くの人にとって一生に一度あるかないかの出来事です。思いがけない相続の発生が、これまでの生活を大きく揺るがすこともあります。

こうした状況を防ぎ、長年にわたって家庭を支えてきた配偶者の暮らしを守るために設けられているのが「配偶者の税額軽減制度」です。この制度は、被相続人(亡くなった方)の財産を引き継ぐ際に、配偶者が取得する財産について「1億6,000万円」または「法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは相続税がかからないという優遇措置です。

ただし、この制度を利用するためには、相続税申告書の提出が必須であることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。さらに、将来的に起こりうる「二次相続」も見据えた、総合的な相続対策を考えておくことが重要です。本記事では、ご夫婦の相続における「配偶者の税額軽減制度」について、制度の基本的な仕組みから適用の流れ、そして注意すべきポイントまでを、わかりやすく解説していきます。

出典元|国税庁「配偶者の税額の軽減」
出典元|相続税法第19条の2「配偶者に対する相続税額の軽減」

 


 

配偶者の税額軽減制度とは?

相続税において、日本の税制には、残された配偶者を守るための特別な仕組みがあります。それが「配偶者の税額軽減制度」です。この制度は、被相続人(亡くなった方)の財産を引き継いだ配偶者に対して、一定の金額までは相続税を課さないという優遇措置であり、残された配偶者の生活を保障する目的で設けられています。

制度の概要
「配偶者の税額軽減制度」とは、相続税法第19条の2に基づき、配偶者が相続する財産のうち、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税を課さないという制度です。

つまり、残された配偶者が自宅や預貯金などの財産を引き継いでも、一定の範囲内であれば相続税がかからず、生活の安定を守るための仕組みといえます。相続税の負担を大幅に軽減できるため、住み慣れた家にそのまま住み続けることや、生活を維持して暮らすことが可能になります。

出典元|国税庁「配偶者の税額の軽減」
出典元|相続税法第19条の2「配偶者に対する相続税額の軽減」

 


 

対象の財産
配偶者が相続によって取得した課税対象財産が、制度の適用対象となります。これらのうち、配偶者が取得する財産の合計が1億6,000万円以下または法定相続分以下であれば、相続税は発生しません。代表的な財産の種類は次のとおりです。

不動産
自宅・土地・賃貸用不動産などが該当します。居住用・収益用のどちらも対象となります。

金融資産
預貯金・株式・投資信託・債券などが該当します。被相続人名義の資産を、相続によって配偶者が取得した場合に対象となります。

動産類
車・貴金属・美術品などが該当します。評価額を算出して課税価格に含める必要があります。

生命保険金
「みなし相続財産」に該当する生命保険金が対象です。相続税の課税対象に含まれる部分について、税額軽減の適用を受けられます。

出典元|国税庁「相続又は遺贈により取得したものとみなす場合」
出典元|相続税法第3条「相続又は遺贈により取得したものとみなす場合」

債権・貸付金
貸付金・売掛金などが該当します。評価額に基づいて課税対象となるため、正確な算定が求められます。

 


 

非課税または対象外の財産
以下のような財産は、配偶者の税額軽減制度の対象外となります。

相続税の非課税財産
生命保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)など、もともと相続税の課税対象外となる財産です。

出典元|国税庁「相続税の課税対象になる死亡保険金」
出典元|相続税法第12条「相続税の非課税財産」

相続以外で取得した財産
生前贈与や死亡退職金のうち、相続税法上で非課税とされている部分などが該当します。

出典元|国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」

 


 

利用の条件
配偶者の税額軽減制度を利用するためには、次の条件を満たす必要があります。

法律上の配偶者であること
制度を利用できるのは、戸籍上の夫または妻に限られます。婚姻届を提出していない内縁関係や事実婚の方は対象外です。婚姻期間の長さは問われませんが、法律上の婚姻関係が成立していることが前提となります。

遺産分割が確定していること
相続人全員の合意により、誰がどの財産を取得するかを確定させる必要があります。その内容は、遺言書または遺産分割協議書で明確にしておくことが望ましいです。

また、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に分割が確定していなければ、原則として軽減の適用を受けることはできません。ただし、やむを得ない理由がある場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、一定の猶予が認められる場合もあります。

出典元|国税庁「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」

相続税の申告書を提出すること
配偶者の税額軽減を受けるには、相続税の申告が必須です。税務署に「相続税申告書」を提出し、遺産分割協議書・財産評価明細書・戸籍関係書類などを添付しなければなりません。

出典元|国税庁「相続税の申告と納税」

 


 

配偶者の税額軽減制度を受けるには、必要書類をそろえ、期限内に正しく申告することが大切です。しかし、相続税の申告や財産評価には専門的な知識が求められます。

ご自身が制度の対象となるかどうかなど、不安を感じる場合は、相続専門の税理士や行政書士などが所属する、みらいえ相続グループへ一度ご連絡ください。制度の適用から将来の相続対策まで、安心してご相談いただけます。

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みらいえ相続グループでは、東京・仙台を拠点に、相続の専門家が、対面やオンラインでのご相談にも対応しております。まずは、お気軽にご相談ください。

 


 

手続きと申告の流れ

配偶者の税額軽減制度を受けるためには、必ず相続税の申告手続きを行う必要があります。この制度は、法律上の要件を満たしていても、申告書を提出しなければ自動的には適用されません。ここでは、申告の流れや必要書類、期限などについてわかりやすく解説します。

申告期限と基本ルール
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内です。この期限内に、被相続人の住所地を管轄する税務署へ相続税申告書を提出しなければなりません。

期限を過ぎると、延滞税や加算税が課されるほか、配偶者の税額軽減制度の適用そのものが認められない場合もあります。申告の遅れは大きな損失につながるため、早めの準備と専門家への相談が重要です。

出典元|国税庁「相続税の申告と納税」

 


 

申告手続きの流れ

相続人と財産の確認
被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集し、法定相続人を確定します。相続人が「配偶者」「子」「直系尊属」「兄弟姉妹」など、どの区分に該当するかを明確にしましょう。

出典元|民法第887条〜第889条「法定相続人の範囲」

財産の調査と評価
不動産・預貯金・有価証券・生命保険金・退職金など、すべての財産を洗い出します。不動産は路線価方式または倍率方式で評価し、条件によっては「小規模宅地等の特例」を適用して評価額を減額できます。また、借入金などの債務も正確に把握し、純資産額を算出します。

出典元|国税庁「財産評価基本通達」
出典元|国税庁「小規模宅地等の特例」
出典元|相続税法第13条「債務控除」

遺言書または遺産分割協議書の作成
誰がどの財産を相続するかを明確にし、その内容を書面で証明します。遺産分割が確定していない場合は、配偶者の税額軽減制度を適用することができません。

ただし、申告期限までに分割が間に合わない場合でも、3年以内に分割が確定すれば更正の請求が可能です。その際は、申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する必要があります。

出典元|国税庁「提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」

申告書の作成・提出
提出にあたっては、以下のような書類を準備します。財産状況により必要書類が異なります。
相続税申告書
配偶者控除の計算書
財産評価明細書
遺言書または遺産分割協議書の写し
戸籍謄本、住民票除票、印鑑証明書
預貯金残高証明書、不動産評価証明書、株式・保険明細 など

納税・還付の手続き
相続税が発生する場合は、現金納付のほか、延納や物納による納税も可能です。また、申告後に配偶者の税額軽減の適用漏れや財産評価の見直しにより税額が減少した場合、更正の請求によって相続税が還付されるケースもあります。

出典元|国税庁「相続税の延納」
出典元|国税庁「相続税の物納」

 


 

相続税の申告は、期限の管理や評価方法、書類の作成など、想像以上に複雑で専門性の高い手続きです。とくに配偶者の税額軽減制度を適用するには、遺産分割の確定や正確な財産評価が欠かせません。ご自身で進めるには負担が大きく、申告の不備が思わぬ税負担につながることもあります。

みらいえ相続グループでは、税理士・行政書士などが連携し、相続税申告までワンストップでサポートしています。配偶者の税額軽減を上手に活用し安心の相続手続きをご提案いたします。

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注意点と二次相続対策

配偶者の税額軽減制度を活用すれば、相続税の負担を大幅に減らし、結果として税額がゼロになる場合もあります。ただし、この制度を適用した後に迎える「二次相続」では、相続人の構成や財産の分け方によって税負担が変わることがあります。また、申告期限や必要書類の準備、遺産分割の確定など、手続きを正確に進めることも欠かせません。

この制度は、残された配偶者の生活を守るために設けられた大切な仕組みです。ここでは、配偶者の税額軽減制度をより効果的に活かすためのポイントと、将来を見据えた賢い相続対策について解説します。

二次相続とは
「二次相続」とは、一次相続のあと、残された配偶者が亡くなった際に発生する次の相続を指します。

一次相続の時点では配偶者の税額軽減制度により相続税がかからなくても、次の相続では財産の評価額や相続人の数によって税負担が変わることがあります。

一次相続の段階から二次相続を見据えて設計することが、より安心で無理のない相続につながるということです。

 


 

バランスの取れた分割と対策
配偶者の税額軽減制度を上手に活用することで、一次相続の税負担を抑えるだけでなく、将来の二次相続に備えることも可能です。理想的なのは、「まず配偶者の生活資金をしっかり確保し、そのうえで次の世代への承継も考える」ことです。

たとえば、生活費や医療・介護費用を考慮して配偶者が一定の財産を相続し、残りを子へ分けるような設計を行えば、一次相続・二次相続の両方で無理のない税負担と分割バランスを実現できます。

専門家によるシミュレーションを行うことで、一次・二次相続の双方から最も効果的な分割方法を見つけることができます。

 


 

生前贈与・生命保険の活用
二次相続対策としては、生前からの資産移転も有効です。これらを組み合わせることで、相続開始前から税負担を軽減し、次の世代へのスムーズな資産承継が可能になります。

暦年贈与
毎年110万円までの贈与は非課税とされており、計画的に子や孫へ資産を移転できます。時間をかけて贈与を進めることで、相続財産の圧縮につながります。

出典元|国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」

生命保険金の非課税枠
500万円 × 法定相続人の数までの死亡保険金は非課税です。納税資金の準備にも活用でき、万が一のときの家族の生活を支える手段になります。

出典元|国税庁「相続税の課税対象になる死亡保険金」
出典元|相続税法第12条「相続税の非課税財産」

教育資金の一括贈与特例
子や孫への教育費の支援を目的に、一定額まで非課税となる制度です。

出典元|国税庁「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合」
出典元|租税特別措置法第70条の2「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合」

 


 

配偶者の税額軽減制度は、いまの相続だけでなく、将来の二次相続まで見据えて活用することが重要です。相続は家族の未来をどう守るかを考える長期的な設計でもあります。生前贈与や保険の活用、分割バランスの調整など、最適な対策はご家庭の状況によって異なります。早い段階から専門家に相談することで、節税と安心の両立を実現できます。

みらいえ相続グループでは、一次相続から二次相続、生前対策までを総合的にサポートしています。ご家族にとって最も安心できる相続の形を、一緒に考えていきましょう。

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AIや比較サイト、国税OBの肩書きなどで、税理士を選んでいませんか?

相続の税理士選びは「どこに相談するか」がとても大切です。

最近では、ChatGPTなどのAI情報や税理士の比較サイトを参考に、相談先を決める方が増えています。また、国税出身・国税OBなどの肩書きに安心感を持つ方も少なくありません。

しかし、そうした情報や肩書きだけで判断してしまうのは非常に危険です。国税出身だからといって税務調査を避けられるわけではなく、特別なルートがあるわけでもありません。

だからこそ、ご自身の目で複数の事務所を比較し、しっかり納得したうえで税理士を選ぶことが大切です。みらいえ相続グループでは、ご契約前に丁寧なご説明を行い、お客様の不安や疑問にしっかり向き合うことを大切にしています。

 


 

相続の安心は専門家とともに

相続は、人生でそう何度も経験するものではありません。しかし、その一度が残された家族の未来を大きく左右します。配偶者の税額軽減制度は、うまく活用すれば1億6,000万円または法定相続分相当額まで相続税がかからないという、非常に便利な制度です。

この制度が設けられている背景には、残された配偶者が経済的に困らず、安心して暮らせるようにという国の配慮があります。大切な人を失っても、生活の基盤を守りながら、これまでと変わらない暮らしを続けられるように設計された救済措置といえるでしょう。

もし手続きや要件に不安を感じる場合は、専門家へ相談することが何よりの大切です。経験豊富な税理士であれば、配偶者の税額軽減制度の適用だけでなく、二次相続を見据えた節税シミュレーションや、最適な遺産分割の方法についても具体的にアドバイスすることができます。

みらいえ相続グループでは、税理士・行政書士などがチームを組み、相続税申告・登記・名義変更など相続に関する手続きをワンストップでサポートしています。大切な人の想いを正しく受け継ぎ、安心して次の人生を歩むために、ぜひ専門家へご相談ください。

 


 

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[監修]

佐藤 智春代表 税理士・行政書士

経歴:仙台大原簿記専門学校卒業後、宮城県で最年少税理士登録。20年以上の実務経験を持ち相続専門税理士として数多くの案件を手がける。(2024年相続税申告実績/222件) 相続専門税理士佐藤智春は税理士の日(2月23日)に産まれ、二次相続はもちろん、三次相続までサポートできます。多くの案件をこなしているからこそ三次相続まで見据えた遺産の分け方を提案しています。

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