節税対策
生前対策・事業継承で
相続税を節税する方法
01相続税の基本知識
相続税の計算方法
相続税は、相続財産総額から基礎控除額を差し引いた課税対象額に税率を適用して算出されます。課税対象額が多いほど税率が高くなる累進課税制度で、申告の際にはすべての財産を評価して計算する必要があります。
基礎控除額の解説
相続税の基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で算出されます。たとえば、法定相続人が2人の場合、基礎控除額は4,200万円となり、この範囲内であれば相続税は発生しません。基礎控除額を上回る場合に相続税申告が必要です。
相続税の税率構造
相続税の税率は10%から55%までの累進税率で構成され、課税対象額に応じて異なります。財産が大きいほど税率が上がるため、早めの対策が推奨されます。
申告が必要なケース
相続税申告は、基礎控除を超える財産がある場合に必要です。財産には現金や預貯金だけでなく、不動産や生命保険金、株式なども含まれるため、申告が必要かを確認しておきましょう。
02生前対策による節税方法
生前贈与の活用
暦年贈与は、生前に毎年一定額(年間110万円)までの贈与を非課税で行える制度です。たとえば、10年間にわたり毎年110万円を贈与すると、総額1,100万円を非課税で移転できます。計画的に暦年贈与を行うことで、相続時の財産総額が減少し、相続税負担を減らせます。贈与を行う際は、口座の証拠書類や贈与契約書を用意しておくと、税務署に贈与が明確に分かり、税務リスクを軽減できます。
「一般税率」
課税価格(贈与額) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | なし |
200万円超〜300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超〜400万円以下 | 20% | 10万円 |
400万円超〜600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超〜1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超〜1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超〜3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超〜4,500万円以下 | 55% | 400万円 |
4,500万円超〜6,000万円以下 | 60% | 650万円 |
6,000万円超〜1億円以下 | 65% | 1,150万円 |
1億円超 | 70% | 1,700万円 |
特例税率(直系尊属から20歳以上の子・孫への贈与)
課税価格(贈与額) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | なし |
200万円超〜400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超〜600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超〜1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超〜1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超〜3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超〜4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超〜6,000万円以下 | 55% | 640万円 |
6,000万円超〜1億円以下 | 60% | 940万円 |
1億円超 | 55% | 1,500万円 |
教育資金贈与の特例
教育資金贈与の特例では、祖父母から孫に対して教育資金を贈与する場合、最大1,500万円まで非課税となります。この特例を利用すると、教育費の負担を軽減しながら財産を移転でき、子供や孫の教育支援としても活用できます。贈与した資金は、学費や教材費、宿泊費などに利用でき、非課税の対象範囲も広いのが特徴です。専用口座を利用して管理することで、用途や使用状況が明確になります。
結婚・子育て資金贈与の特例
祖父母から孫への結婚・子育て資金の贈与についても、1,000万円まで非課税で贈与可能です。この特例を活用すると、結婚費用や出産・育児に必要な費用を支援でき、財産移転の手段として節税効果が期待できます。利用範囲には結婚式費用、出産費用、育児費用などが含まれ、特定のライフイベントを支援しつつ財産移転を進められます。
住宅取得等資金贈与の特例
住宅取得資金の贈与特例では、子や孫がマイホームを購入するための資金を贈与する場合、一定額まで非課税で贈与が可能です。この特例を活用することで、子供世代の住まい確保をサポートし、税負担を減らせます。対象額は住宅の省エネ性能などによって異なりますが、適用を受けるには税務署への申告が必要です。事前に贈与契約を結び、計画的に活用しましょう。
贈与税の配偶者控除
配偶者控除を利用すると、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、自宅不動産や取得資金としての贈与を行う場合に、2,000万円まで非課税で贈与できます。配偶者が不動産を相続する際、相続税負担を軽減する効果があり、特に配偶者控除と組み合わせることで、税負担が大幅に軽減されるメリットがあります。この控除を利用するには、贈与後に自宅として不動産を利用する必要があります。
不動産対策
小規模宅地等の特例活用
小規模宅地等の特例は、自宅や事業用宅地の相続時に、一定の面積まで評価額を大幅に減額できる特例です。たとえば、自宅の宅地を相続する場合、最大80%の評価減が可能です。この特例を利用すると、不動産の評価額が抑えられ、相続税額を大きく減少させられます。利用条件には、相続後も親族が引き続きその宅地に住むことが含まれるため、事前に条件を確認し準備しておくことが重要です。
不動産の共有化
不動産を複数の相続人で共有名義にしておくと、相続時に財産が分割され、各相続人が負担する相続税が軽減されます。たとえば、1人で所有する場合と比較して、複数名義にすることで評価額の分割が可能です。ただし、共有にすると管理や売却の際に全員の同意が必要になるため、共有化のメリット・デメリットを検討しておくことが大切です。
借地権の活用
借地権の土地は、所有地に比べて評価額が低く、相続税が安くなる傾向があります。賃借権のため所有権よりも評価が下がるため、相続時の財産評価において節税効果が期待できます。借地権の活用は、不動産管理の負担を抑えたい場合や、所有する土地の評価を抑えたい場合に適しています。
マンション・アパート経営の活用
マンションやアパートなどの賃貸不動産を所有すると、収益を得ながら不動産の評価額を抑えることができます。賃貸物件の評価は通常の不動産評価より低く、さらに家賃収入が見込めるため、資産運用と節税の両立が可能です。賃貸経営を行う際は、事前に維持費や管理の手間も考慮しておくと安心です。
不動産の有効活用方法
不動産を有効に活用することで、相続時の評価額を低く保ちながら、資産を有効に運用できます。賃貸物件や事業用として活用することで、維持費をまかないつつ節税が可能です。利用しない不動産は売却を検討し、相続に向けた管理方法を見直しておくと節税効果が高まります。
生命保険の活用方法
小規模宅地等の特例活用
生命保険を活用することで、死亡保険金に非課税枠(500万円×法定相続人の数)を適用し、相続税の負担を軽減できます。非課税枠があるため、保険金受取人を配偶者や子供に設定することで、遺産分割や生活資金の確保にも役立ちます。
死亡保険金の非課税枠
死亡保険金には法定相続人の数に応じた非課税枠が適用されます。たとえば、相続人が3人いる場合、1,500万円まで非課税で受け取ることが可能です。保険契約を利用すると、相続財産の一部を非課税で移転できるため、節税効果が高まります。
NISA・つみたてNISAの活用
NISA(少額投資非課税制度)は、年間120万円までの投資が非課税となる制度で、つみたてNISAでは年間40万円までが対象です。生前にNISAを利用して資産運用を行うことで、運用益にかかる税金を抑えつつ、将来的に相続財産の評価をコントロールすることが可能です。
個人年金保険の活用
個人年金保険に加入することで、老後の資産を準備しながら相続税対策ができます。年金受取開始後に資金を分割して受け取るため、財産を分散する効果があり、配偶者や子供の生活費として役立ちます。加入時の契約内容を確認し、必要に応じて家族に伝えておくと良いでしょう。
契約者と受取人の設定
保険契約において、契約者、被保険者、受取人を適切に設定することで、節税効果を最大化できます。たとえば、契約者と受取人を別の人に設定することで、保険金が相続財産とならない場合もあり、課税額を抑えられることがあります。契約の組み合わせによって節税効果が異なるため、事前に計画的に検討することが重要です。
03事業承継における節税対策
事業承継税制の活用
事業承継税制は、中小企業が円滑に事業を後継者に引き継ぐために、相続税や贈与税の負担を軽減できる制度です。一定の条件を満たせば、自社株や事業用資産にかかる相続税や贈与税の納税を猶予または免除することができます。この税制を利用すると、事業資産が大きい企業でも相続税負担を抑えつつ、事業を継続することが可能です。適用を受けるためには、後継者が会社を5年間継続することや雇用維持要件などの条件があります。事前に専門家と相談しながら計画的に対策を進めると、スムーズな承継が実現できます。
自社株の評価引下げ
事業承継では、自社株式の評価額が高いと相続税が大きな負担になる可能性があります。自社株の評価引下げは、役員報酬や配当の見直し、資産構成の変更を行うことで、株価を適正水準に下げ、相続時の負担を軽減する方法です。たとえば、高額な役員報酬を減額することで利益が抑えられ、株価の引下げにつながります。また、不要な資産を売却して事業純資産額を減らすなども有効な手段です。自社株の評価引下げには企業活動に影響を与えない配慮が必要で、事業の安定性を維持しながら計画を進めることが求められます。
種類株式の活用
種類株式を発行することで、後継者に経営権を集中させつつ、他の家族には配当を受け取れるような株式設計が可能になります。たとえば、議決権がない「無議決権株式」や、特定の株主に配当を優先する「優先株式」を活用すると、後継者が事業の運営権を持ちながら、家族間の公平性も保たれます。種類株式の発行により、経営権と経済的利益を分離できるため、円滑な事業承継が実現しやすくなります。ただし、種類株式の発行には定款の変更が必要で、法律的な手続きが伴うため、事前に専門家のアドバイスを受けることが大切です。
分散された株式の集約
株式が複数の家族や親族に分散している場合、経営権が不安定になり、事業承継が困難になることがあります。株式の集約は、後継者が安定した経営権を持てるよう、事前に株式を一元化する方法です。家族内で株式を譲渡したり、相続でまとめて後継者に集約したりすることで、経営の意思決定が迅速になり、会社の運営が円滑に進みます。また、株式を集約することで、株主が変わる際に発生する税務リスクも低減できます。株式の集約には、贈与や譲渡に関わる税金も発生するため、コストや手続きについても計画的に進める必要があります。
事業用資産の特例
事業用資産には、土地や建物、設備などが含まれますが、これらの資産を相続する際には特例を活用することで節税が可能です。事業用資産の特例を利用すると、特定の条件を満たせば評価額を抑えることができ、相続税の負担が軽減されます。たとえば、事業用宅地については「小規模宅地等の特例」を利用することで、最大80%の評価減が適用されます。この特例は、後継者が事業用資産を継続して利用することが条件であり、事業の存続にとっても有効な手段です。特例を受けるには、継続的な事業運営が求められるため、後継者が事業を引き継ぐ準備が整っているかの確認が必要です
04相続発生後の節税対策
各種控除の活用
配偶者の税額軽減特例
配偶者の税額軽減特例では、相続によって財産を受け取った配偶者が対象となり、1億6,000万円まで、または法定相続分相当額まで非課税で受け取ることができます。配偶者の生活保障を目的として設けられた制度であり、これを活用することで配偶者が相続する財産が高額であっても相続税の負担を抑えることができます。特例を利用する際には申告が必要であり、配偶者に適切な財産を分配する遺産分割の計画も重要です。
未成年者控除
未成年者控除は、相続時に20歳未満の子どもが財産を受け取る場合に適用される控除です。相続税額から、20歳になるまでの年数に10万円を掛けた金額が控除されます。たとえば、15歳の相続人の場合は50万円が控除されることになります。この制度は、未成年者の生活費や教育費の負担を軽減する目的があり、若年層がいる家庭では節税対策として役立ちます。
障害者控除
障害者控除は、相続人が障害者である場合に適用される控除です。相続税額から、85歳になるまでの年数に10万円(特別障害者は20万円)を掛けた金額が控除されます。たとえば、60歳の特別障害者が相続人の場合、500万円の控除を受けることができます。この控除により、障害を持つ相続人が安心して生活できるように支援される仕組みが整っています。
相次相続控除
相次相続控除は、10年以内に複数の相続が発生した場合、後の相続での相続税額から前回の相続時に支払った税金の一部を控除できる制度です。たとえば、父親が亡くなった後すぐに母親が亡くなった場合、母親の相続で相次相続控除を利用すると相続税負担が軽減されます。この控除は、家族の連続した相続による税負担を軽減する目的があり、予期しない相続が発生した場合に備えることができます。
債務控除の活用
被相続人が残した借入金や未払税金などの債務は、相続財産から差し引くことができ、課税対象額を減らせます。たとえば、被相続人が住宅ローンを抱えていた場合、その残債が債務控除の対象となり、相続税額が減少します。控除対象となる債務には、事業資金の借入金や医療費の未払い分なども含まれるため、正確な債務額を確認して申告することが重要です。
財産評価の適正化
不動産の評価方法
相続税における不動産評価は「路線価方式」や「倍率方式」で行われます。路線価方式では、路線価をもとにした評価額が適用され、倍率方式は固定資産税評価額に倍率をかけて計算します。また、不動産の形状や利用制限(農地、山林など)も評価額に影響を与えるため、土地の特性に応じた方法で評価を適正に行うことが節税につながります。不動産鑑定士に依頼して評価額を見直すと、評価減が可能なケースもあるため、専門家の意見を参考にしましょう。
有価証券の評価方法
株式や債券といった有価証券の評価は、相続開始時の時価で行われます。上場株式は終値が基準となり、未公開株式は配当還元方式や類似業種比準方式などが用いられます。特に未公開株式の評価は会社の規模や収益性に応じて変わるため、専門家のアドバイスを受けて適切な評価方法を選ぶことが重要です。また、株価のタイミングによって評価額が変わるため、相続開始時点の市場状況を確認しておきましょう。
貸付金の評価方法
被相続人が他人に貸している金銭(貸付金)は、相続財産として評価されます。貸付金の評価額は、貸付先の支払能力や返済状況に応じて見直しが可能です。たとえば、貸付先が返済困難な場合は、貸付金の一部を貸倒れとして減額することができます。適正な貸付金評価を行うことで、相続税の節税効果が期待できるため、返済状況をしっかり確認して評価額に反映しましょう。
負債の控除方法
相続財産から控除できる負債には、被相続人の借入金や未払い金が含まれます。たとえば、被相続人が事業資金の借入金を抱えていた場合、その負債は相続財産から控除できます。控除の対象となる負債を正確に把握し、相続税申告時に適切に申告することで、課税対象額が減り、節税効果が得られます。債務内容については確認書類を用意し、漏れがないように申告を進めましょう。
評価方法の選択
財産ごとに適切な評価方法を選択することで、相続税額の圧縮が可能です。たとえば、不動産の評価は路線価方式と倍率方式のどちらか有利な方法を選び、有価証券についても市場状況に合わせた時価評価を行うなど、最適な評価方法を選ぶことが重要です。財産の種類や状況に応じた評価方法の選択で、無理なく節税を図ることができます。
相続発生後の節税対策は、各種控除の活用や財産評価の見直しがポイントとなります。適切に評価を行い、必要な控除をもれなく活用することで、相続税の負担を軽減できます。