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教育資金贈与の非課税制度終了、相続に与える影響と生前対策。

贈与税

佐藤 智春

教育贈与の非課税が終了へ

「教育機会の確保」「教育資金援助の容易化」「高齢世代から若年世代への資産移転促進」「消費の喚起」などを目的として導入された教育資金贈与の非課税制度(教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置)は、2013年の創設以来、直系尊属(祖父母や父母)から子や孫へ最大1,500万円までの教育資金を非課税で贈与できる仕組みとして活用されてきました。

制度では、子や孫名義の金融機関の専用口座に一括で教育資金を拠出することで、入学金や授業料、学習塾や習い事など、一定の教育費に充てた部分について贈与税がかかりません。制度開始からの累計利用は27万件超に上る一方、近年は出生数に対する新規利用割合が約1%程度と低下し、利用が伸び悩んでいることも指摘されています。

この制度は、当初は時限措置として導入され、その後数回の延長を経て、現在は令和8年(2026年)3月31日まで適用されることになっていますが、政府・与党はこの期限で延長を行わず、制度を終了させる方向で検討を進めています。

本コラムでは、制度の仕組みと注意点、利用実態と終了に至る背景、相続への影響と今後の生前対策を整理しながら、これからどのように考えていくべきかを解説していきます。

出典元|国税庁「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
出典元|共同通信社「教育贈与の非課税終了へ。来年3月延長見送り、利用低調」

 


 

教育資金贈与の非課税制度とは?

教育資金贈与の非課税制度は、「直系尊属(父母・祖父母など)から30歳未満の子や孫へ、教育資金を一括で贈与した場合に、最大1,500万円まで贈与税がかからない」という、非常に大きな優遇措置です。通常の贈与とは異なるため、制度の基本的な仕組みと注意点を整理して理解することが大切です。

制度の目的
教育資金贈与の非課税制度(教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置)は、次のような目的で創設されました。

高齢世代に偏在している金融資産の若年世代への移転の促進
子育て世帯の教育費負担を軽減
将来の人材育成と経済活性化

 


 

制度の概要
贈与者(あげる人):受贈者の直系尊属(父母・祖父母・曾祖父母など)
受贈者(もらう人):30歳未満の子・孫など

贈与を受ける前年分の合計所得金額が1,000万円以下であること

非課税限度額:受贈者1人あたり最大1,500万円
学校等への支払い:1,500万円まで
学校外(塾・習い事など):500万円まで(上記1,500万円の枠内)

適用期間:平成25年(2013年)4月1日~令和8年(2026年)3月31日に拠出された教育資金が対象

利用方法:金融機関で教育資金管理契約を結び、専用口座(教育資金口座)に一括拠出し、領収書等を提出して払い出しを受ける

出典元|国税庁「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
出典元|文部科学省「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」

 


 

通常の贈与との違い
教育資金贈与の非課税制度は、一度に多額の教育資金を非課税で移転できる点が、通常の贈与との最大の違いであり、相続税・贈与税の節税対策として大きな特徴となっています。

通常の贈与とは
年間110万円まで非課税で、使い道に制限なく自由に資金を渡せる制度です。教育費については、必要な都度、親や祖父母が直接支払う場合に限り、生活費・教育費として贈与税はかかりません。ただし、将来分をまとめて渡すなど、一度に多額の資金を贈与すると贈与税が課税されます。

 


 

見落としがちな注意点・デメリット
制度には大きなメリットがある一方で、次のような注意点もあります。

30歳到達時の残額は贈与税の対象
受贈者が30歳になった時点で教育資金口座に残額がある場合、原則としてその残高は贈与税の課税対象になります(一定の条件を満たす場合は40歳まで延長可)。「せっかく非課税枠が1,500万円あるから」と必要以上に多く拠出すると、結果的に使い切れず、30歳時点で贈与税がかかるリスクがあります。

贈与者死亡時の課税関係が厳格化
令和5年度税制改正では、贈与者死亡時点での管理残高について相続税を課すルールが強化されました。とくに令和5年(2023年)4月1日以降の拠出分は、原則として贈与者死亡時の残高が相続財産に加算され、相続税の対象になります。「非課税=相続税もかからない」と誤解していると、思わぬ課税を受けるおそれがあります。

解約はできず、手続きにも手間がかかる
一度契約を結ぶと、原則として贈与者に資金を戻すことはできません。また、払い出しのたびに領収書の提出が必要で、一般の預金口座のような自由度はありません。契約後の解約は原則不可、出金ごとに領収書等の提出が必要、追加拠出のたびに手続きが必要といった点から、「制度は知っているが実際に使うのはハードルが高い」と感じる方も多くいらっしゃいます。

出典元|租税特別措置法第70条の2の2「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」
出典元|財務省「令和5年度税制改正の大綱」

 


 

教育資金贈与の非課税制度は、うまく活用すれば、子や孫への教育支援と相続税の節税対策を同時にかなえられる有効な制度です。一方で、受贈者の年齢制限や30歳時点での残額課税、贈与者が亡くなった場合の相続税の扱いなど、適用要件や課税関係は非常に細かく、判断を誤ると想定外の税負担が生じるおそれもあります。制度の仕組みが少しでも難しいと感じた場合は、無理に自己判断せず、専門家の力を借りて慎重に進めることが重要です。

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制度終了の実態と背景

これほど大きな非課税枠を持つ制度でありながら、教育資金贈与の非課税制度は、実際にはごく一部の家庭にしか利用されていないという指摘があります。累計27万件という数字だけを見ると大きく見えますが、出生数に対する新規利用割合は1%程度にとどまり、制度開始当初の勢いは失われました。

その背景には、「富裕層への恩恵集中」「手続きの煩雑さ」「教育無償化の進展」など、制度運用を通じて浮き彫りになったさまざまな問題があります。ここでは、制度の利用実態と終了に向かう要因を整理してみましょう。

一部の富裕層に集中する制度の恩恵
教育資金贈与の非課税制度は、非課税枠が最大1,500万円と高額であることから、制度の恩恵を十分に受けられるのは、そもそも多額の資金を一括で拠出できる資産に余裕のある家庭に偏りやすい構造となっています。

その結果、富裕層の子や孫ほど手厚い教育機会を得やすく、教育格差が将来の所得や資産の差につながり、世代を超えた格差の固定化を助長しかねないとの批判も上がっていました。

 


 

利用を阻む実務負担と厳しい制度運用
利用件数が伸び悩んだ理由として、次のような実務上の負担が挙げられます。

金融機関での専用口座開設が必要
契約書作成や教育資金非課税申告書の提出など事務負担が大きい
払い出しのたびに領収書等を提出しなければならない
どこまでが教育費か、細かい線引きが分かりづらい
一度拠出した資金を贈与者に戻すことができない

とくに、「30歳到達時の残高に贈与税」「贈与者死亡時の残高に対する相続税」という仕組みが、令和5年度改正で強化されたことにより、節税目的での安易な利用に歯止めをかける方向へ舵が切られました。

 


 

教育無償化の進展で薄れた制度の役割
もう一つ見逃せないのが、教育無償化政策の進展です。幼児教育・保育の無償化、高校授業料の実質無償化、大学等の授業料減免制度の拡充、といった公的支援が広がるなか、一定水準の教育費については公費で支える体制が整ってきており、教育資金贈与の非課税制度が担ってきた役割は相対的に小さくなっているという評価が強まっていきました。

 


 

教育資金贈与の非課税制度は、延長と見直しを重ねながら続いてきましたが、利用の偏りや格差固定化への懸念、教育無償化の進展などを背景に、2026年3月末での終了が見込まれています。制度終了の影響は、ご家庭の資産状況や家族構成によって大きく異なります。報道の見出しだけで一喜一憂するのではなく、いま何ができるのか、今後どのような選択肢があるのかを専門家と共に整理することが大切です。

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相続や生前対策への影響と対策

これまで教育支援と節税対策を同時に実現できる制度として、相続税がかかる可能性の高い家庭を中心に重宝されてきました。1人あたり1,500万円まで贈与税ゼロで一括移転できる制度が使えなくなることは、相続・生前対策の選択肢が一つ失われることを意味します。

しかし、制度がなくなっても、相続税・贈与税の節税対策そのものができなくなるわけではありません。ここでは、制度終了後に検討したい生前の節税対策や、すでに制度を利用している方が注意すべきポイントを整理します。

これからも使える代表的な生前対策
教育資金贈与の非課税制度が使えなくなった後も、相続税対策として検討できる方法はいくつかあります。代表的なものを整理しておきましょう。

 


 

暦年贈与
毎年コツコツと贈与していく「暦年贈与」は、もっとも基本的な生前贈与の方法です。1人あたり年間110万円までは、贈与税の基礎控除の範囲内となるため贈与税はかかりません。複数年にわたり計画的に贈与することで、相続財産を徐々に減らしていくことができます。

近年は「相続開始前一定期間内の贈与を相続財産に戻すルール(生前贈与加算、持ち戻し)」の見直しが進み、従来より設計が複雑になりつつありますが、家族構成や寿命の見込みを踏まえて計画的に行えば、今後も重要な相続税対策の一つといえるでしょう。

出典元|国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」

 


 

相続時精算課税制度の活用
相続時精算課税は、原則として生前に2,500万円までの贈与について贈与税を非課税とし、その代わりに相続発生時にその贈与分を含めて相続税を精算する制度です。贈与の時点では税金をかけず、とにかく早い段階で子や孫へ資産を移したい場合に有効な選択肢になり得ます。ただし、一度この制度を選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ戻ることはできず、財産状況によっては最終的な相続税額が増えるケースもあります。

相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設され、これにより暦年課税の基礎控除とは別に非課税で贈与ができるようになりました。使い方次第では有力な制度ですが、慎重な検討が欠かせません。

出典元|国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」

 


 

教育費・生活費の都度贈与
教育資金贈与の非課税制度が終了しても、親や祖父母が教育費や生活費を必要な都度直接支払う場合、それが通常必要と認められる範囲内であれば、贈与税はかからないという基本的な取り扱いは変わりません。「まとまった一括贈与」ではなく、「必要なタイミングで必要な分だけ支援する」という方法であれば、税務上のリスクを抑えつつ、実質的な支援は十分に行うことができます。

ただし、生活費・教育費の名目で受け取った資金を預金したり、投資に回したりすると課税対象となることもあるため、支払い方法や名義には注意が必要です。不明点がある場合は、事前に専門家へ確認しておくと安心です。

出典元|国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」

 


 

住宅取得等資金の非課税贈与
教育資金の特例とは別に、「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与に係る非課税措置」も用意されています。一定の要件を満たしたうえで、親や祖父母から住宅の新築・取得・増改築のための資金について贈与を受けた場合、受贈者1人あたり一定額(省エネ等住宅なら1,000万円、それ以外は500万円など)まで贈与税が非課税となる制度です。適用期限は税制改正により延長されており、現行では令和8年(2026年)までの贈与が対象とされていますが、年ごとの要件や非課税限度額、入居期限などに注意が必要です。

教育資金贈与の非課税制度の終了後は、「教育費は都度支援」「住宅資金は特例を活用」という役割分担を検討することも、一つの選択肢になります。

出典元|国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」

 


 

生命保険・不動産評価の活用
相続税対策としては、生命保険金の「500万円×法定相続人」の非課税枠を活用する方法や、小規模宅地等の特例などにより不動産の評価額を減額する方法、事業承継税制や法人化を含めた事業承継対策など、さまざまな手段があります。教育資金贈与の非課税制度が使えなくなることで、「一つの制度だけに頼る」のではなく、複数の制度や仕組みを組み合わせて相続全体を設計していく時代が、より一層鮮明になってきたといえるでしょう。

出典元|国税庁「No.4108 相続税がかからない財産」

 


 

すでに制度を利用している場合の注意点
すでに教育資金贈与の非課税制度を利用している方は、次の点を必ずチェックしておきましょう。

教育資金口座の残高はいくらか
受贈者が30歳になるまでに、現実的に使い切れそうか
贈与者が高齢の場合、贈与者死亡時の残高が相続税対象になるリスク
他の生前贈与・相続税対策とのバランス

とくに、令和5年4月以降の拠出分は、贈与者死亡時の相続財産に原則加算されるなど、課税関係が厳格化しています。「教育資金贈与を使っているから、相続は安心」という認識は危険であり、「残高をどう減らしていくか」「他の対策とどう組み合わせるか」を今から検討しておく必要があります。

 


 

ここでご紹介した生前対策は、あくまで数ある方法の一例にすぎません。暦年贈与や相続時精算課税、都度贈与、住宅資金の非課税特例、生命保険や不動産評価の活用など、それぞれに細かな要件や注意点があり、正しく活用するには専門的な知識が必要です。

大切なのは節税だけにとらわれず、ご家族の将来設計や資産の承継の考え方を踏まえて最適な方法を選ぶことです。迷ったときは、相続・贈与の専門家に相談し、無理のない生前対策を進めていくことをおすすめします。

関連記事|相続専門税理士・佐藤智春とは?

 


 

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AIや比較サイト、国税OBの肩書きなどで、税理士を選んでいませんか?

相続の税理士選びは「どこに相談するか」がとても大切です。

最近では、ChatGPTなどのAI情報や税理士の比較サイトを参考に、相談先を決める方が増えています。また、国税出身・国税OBなどの肩書きに安心感を持つ方も少なくありません。

しかし、そうした情報や肩書きだけで判断してしまうのは非常に危険です。国税出身だからといって税務調査を避けられるわけではなく、特別なルートがあるわけでもありません。

だからこそ、ご自身の目で複数の事務所を比較し、しっかり納得したうえで税理士を選ぶことが大切です。みらいえ相続グループでは、ご契約前に丁寧なご説明を行い、お客様の不安や疑問にしっかり向き合うことを大切にしています。

 


 

家族と相続を考える機会に

教育資金の贈与を検討する際、「非課税枠が最大1,500万円あるから」「期限が迫っているから」といった節税のメリットや制度の有無に、どうしても意識が向きがちです。とくに、教育資金贈与の非課税制度のような大きな優遇措置が終了すると聞くと、「代わりの節税策は?」「損をしない方法は?」と不安が先立ってしまう方も多いのではないでしょうか。

しかし、本来、生前贈与でいちばん大切なのは、親御様や祖父母様が築いてきた資産を、子や孫の未来のために、安心して円満に役立てることです。単に贈与税・相続税を1円でも減らすことだけが目的になってしまうと、制度の要件を無視して使い切れなかったり、かえって家族間での資金使途に関する認識の齟齬が生じたりと、「もっと話し合っておけばよかった」という後悔が残ってしまうこともあります。

教育資金や住宅資金の贈与には、状況に応じて活用できるさまざまな制度や方法が用意されています。一方で、それぞれに細かな要件やリスクがあり、「どの特例を、どのタイミングで、いくら使うのがご家族にとって最適なのか」を判断するには、税務や法務に関する専門的な知識と経験が欠かせません。だからこそ、教育資金の準備を含めた生前贈与や相続について考えるときは、できるだけ早い段階で専門家に相談することが何より大切です。

みらいえ相続グループでは、相続税申告や名義変更などの手続きはもちろん、教育資金・住宅資金の贈与特例、事業承継まで含めた生前対策のご相談を、税理士・行政書士などの専門家チームがワンストップでサポートしています。この機会にぜひ一度、ご相談ください。

 


 

※本コラムの内容は、2025年12月執筆時点で公表されている税制・通達等をもとに概要を整理したものです。教育資金贈与の非課税制度や住宅資金の非課税措置、相続時精算課税などは、税制改正や政省令の見直しにより、適用要件や期限が変更される場合があります。

実際に制度の利用や相続対策をご検討される際は、税理士など専門家へご相談いただくことをおすすめします。

 


 

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[監修]

佐藤 智春代表 税理士・行政書士

経歴:仙台大原簿記専門学校卒業後、宮城県で最年少税理士登録。20年以上の実務経験を持ち相続専門税理士として数多くの案件を手がける。(2024年相続税申告実績/222件) 相続専門税理士佐藤智春は税理士の日(2月23日)に産まれ、二次相続はもちろん、三次相続までサポートできます。多くの案件をこなしているからこそ三次相続まで見据えた遺産の分け方を提案しています。

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