大切だったご家族が亡くなり、悲しむ間もなく行わなければいけないのが相続手続き。
その中でもメインとなる手続きが遺産分割協議と言われており、それを記録した書類が「遺産分割協議書」です。
この記事では、その「遺産分割協議書」をご自身で作成するときの方法についてわかりやすく解説します。
ご一読いただければ、遺産分割協議書をご自身で作成するために知っておくべきことや、手続きの手順が理解できます。
そのため、実際にご自身で手続きを進める上で大きな指針になり、安心材料になるでしょう。
遺産分割協議書が必要かどうかを判断する
実は、相続の状況によっては遺産分割協議書を作成しなくてもよい場合があります。
ここでは、まず遺産分割協議書が必要かどうかを確認しておきましょう。
遺産分割協議書が必要な場合
遺産分割協議書が必要な場合は、主に以下のような場合です。
- 遺言がなく、相続人が複数いる場合
- 遺言があっても、遺言通りに遺産分割しない場合
法務省が平成29年に行った調査「我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査」によると、遺言を準備している人は、75歳以上の年代でも全体の11%程度と、まだまだ少ないことがわかります。
参考:我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査
このことから、相続が発生した際の多くは遺産分割協議書を作成する必要がある。
と言えます。
遺産分割協議書が必要ない場合
遺産分割協議書が必要ない場合は、主に以下のような場合です。
・遺言通りに遺産分割する場合
・相続人が1人の場合
遺言がきちんと用意されていた場合には、面倒な遺産分割協議を省くことができます。
ただし、この遺言が公正証書でない場合には遺言と見なされないこともありますので注意しましょう。
遺産分割協議書の作成手順を5ステップで解説
それでは、「遺産分割協議書」を作成する手順を解説します。
実は遺産分割協議書の作成には、以下の5つのステップがあります。
- 相続人を確定させる
- 相続財産を確定させる
- 遺産分割協議を行う
- 遺産分割協議書を作成する
- 名義変更手続きを行う
各ステップごとに解説していますので、一つ一つ確認していきましょう。
ステップ1|家系図を確認!相続人を確定させよう
まずはどの人が遺産を受け取る権利があるのか、相続人を確定させましょう。
ちなみに、「相続人」と「被相続人」という言葉が相続手続きにはよく出てきますが、それぞれ下記のように意味します。
- 相続人…相続する権利を持つ人
- 被相続人…亡くなった人
この相続人を特定させるには、亡くなった方の、生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本が必要です。
なぜなら、生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本には、故人の両親や兄弟、子供などが記載されているからです。
「戸籍謄本を取るだけなら簡単だ」と思われた方も多いかと思いますが、実は結構苦労するケースがあります。
それは、故人の本籍地がよく変わっている場合があるためです。
例えば故人が女性の場合は、結婚のタイミングで本籍が変わっていることが多いです。
その場合は、①現在の本籍地で結婚から亡くなるまでの戸籍謄本を取得し、②結婚前の本籍地で生まれてから結婚するまでの戸籍謄本を取得する必要があります。
再婚している場合など、人によっては何度も本籍が変わっていることもあります。
また戸籍謄本は本籍地でしか取得できないため、遠方だった場合は取りに行くか取り寄せしなければなりません。
実はこの戸籍謄本の取得により、家族もびっくりの事実を知ることもあります。
例えば隠し子がいた場合や、縁を切っていたため誰も知らない兄弟がいた場合など。
仮に隠し子や兄弟が相続人に該当する場合は、その方たちとも連絡を取り、遺産分割協議書に印鑑を押してもらう必要があります。
ステップ2|相続財産を確定させる
さて、相続人が確定したら、次は相続財産を調査しましょう。
相続財産とは、亡くなった方の名義だった預金、不動産、証券など。
その他、たんす預金や高価な絵画、宝石も財産に含まれます。
それぞれの相続財産の調べ方は下記のとおりです。
預金、証券
故人が取引していた銀行、証券会社で「残高証明書」をもらいましょう。
普通預金、定期預金など全ての残高が記載されています。
また銀行では、「貸金庫」の契約がないかも同時に確認しておきましょう。
もし貸金庫の契約があれば、遺言や土地の権利書など大切な書類が入っているこ とがあります。
不動産
自宅などの不動産は、法務局に行って「登記簿謄本」をもらいましょう。
自宅の場合は、「土地」と「建物」の2つの登記簿謄本が必要です。
また、もし同じ地域で複数の不動産を持っていた可能性がある場合は、「名寄帳・固定資産課税台帳」という書類を役所で見せてもらえば、一気に保有不動産を把握できます。
ある程度相続財産が特定できたら、「財産目録」を作りましょう。
財産目録とは、故人の財産をリストアップした表です。
この財産目録には、故人の資産だけでなく、ローンなどの借金も記載しておきましょう。
なお、預金や証券の残高を記載する際には、いつの時点の残高かを明記しておくようにしましょう。
ステップ3|相続人で集まって遺産分割協議を設ける
相続人と相続財産が確定したら、確定した相続人全員を集めて遺産分割について話し合う場を設けます。
今後の手続きで必要なため、相続人たちには以下の持ち物を案内しておきましょう。
- 実印
- 印鑑証明書
- 住民票
相続人が遠方にいて対面で話し合えない場合には、電話やテレビ電話で参加してもらいましょう。
この話し合いですんなりと遺産分割の割合が決まれば理想的ですが、もし相続人間で揉めてしまった場合はどうなるのでしょうか。
その場合は、家庭裁判所で遺産分割協議が必要となります。
過去のご依頼者様にも、「3人兄弟で仲良く分け合うはずが、話し合いでケンカになってしまい、遺産分割協議書に印鑑を押してくれないため、故人の預金が凍結されたままになっている」という方がいます。
特に相続税を納める場合は、相続を知った日の翌日から10ヶ月後が納付期限となります。
それまでに遺産分割の話し合いがまとまらない場合は、遺産をもらえないまま相続人全員で相続税を納めることになります。
ステップ4|遺産分割協議書を作成する
遺産分割の話し合いが決まったら、いよいよ遺産分割協議書の作成です。
話し合いの内容を紙に記載し、相続人全員に署名・実印を押してもらえば完成です。
遺産分割協議書は手書きでもパソコンでも、どちらで作っても構いませんが、おすすめはパソコンでの作成です。
遺産分割協議書は相続人の人数分必要なので、パソコンで作成しておくと人数分印刷することができ便利です。
書き間違えても簡単に修正することが出来ますし、万一の場合に備えてデータとして保存しておくこともできるので、可能であればパソコンで遺産分割協議書を作成しておきましょう。
また遺産分割協議書には、必ず記載しなければならない項目があります。
- 被相続人の名前と死亡日
- どの相続人がどの遺産を取得するか
- 相続人が遺産分割内容に合意している旨
- 預金の場合…銀行名・支店名・口座番号・名義
- 土地の場合…所在地・地番・土地の種類・地積
- 建物の場合…所在地・家屋番号・構造・面積
- 相続人全員の名前・住所・実印押印
また、遺産分割協議書作成後に新たな相続財産が見つかった場合に備え、以下の文言を協議書の最後に記載しておくと後々便利です。
「ここに記載された以外の被相続人にかかる財産があった場合は、〇〇が相続し取得することに異論はないものとする。」
不動産の登記住所が合っていなかったり、預金の口座番号が間違っていたりした場合、せっかく作成した遺産分割協議書が無効になることもあります。
不安な場合は、弁護士や税理士に相談しましょう。
>相続サポートセンターへのお問い合わせはこちら
ちなみに、「遺産相続協議書はいつまでに作らなくちゃいけないの?」と期限を気にされている方もいるかと思いますが、遺産分割協議書に作成期限はありません。
翌年でも10年後でも、法律上は特に問題ないというわけです。
ですがあまり先送りにせずに、早めに作成しておく方が良いでしょう。
なぜなら、遺産分割協議書ができない限り、故人の遺産を分け合うことができないからです。
また何十年も先送りにすれば、相続人だった子が亡くなることも出てきます。
こういったケースを「二次相続」と言い、亡くなった子の子(孫)に相続権が移ることになります。
先送りにすればするほど、財産は凍結されたままで、さらに相続人が増えて手続きが複雑化する可能性があります。
尚、今後相続開始後3年以内に行うよう法律改正が行われます。
ステップ5|名義変更をしに行く
遺産分割協議書が完成したら、銀行や法務局で名義変更を行いましょう。
名義変更することで、正式に相続人のものになります。
預金と不動産の名義変更手続きについては下記のとおりです。
預金、証券
相続財産のある銀行や証券会社に出向きましょう。
必要書類は金融機関によって異なりますので、事前に電話して確認しておけば安心です。
また各金融機関での名義変更手続きは時間がかかりますので、余裕を持って出向くようにしましょう。
最近は銀行も予約制を取り入れていますので、事前に予約を取ってから行くのがおすすめです。
不動産
不動産は、法務局で「相続登記」を行います。
持っていくものは下記のとおりです。
- 遺産分割協議書
- 被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
- 住民票の除票
- 相続人の住民票
- 相続人全員分の印鑑登録証明書
- 相続人関係図(家系図)
>相続で発生した不動産の名義変更について詳しく知りたい方はこちら
まとめ
いかがでしたでしょうか。この記事では、遺産相続協議書の作成方法について説明しました。
普段なじみのない遺産分割協議書ですが、実際の手続きはそこまで複雑ではありません。
とはいえ、ややこしく感じられる部分や、ちょっとした間違いにより無効になってしまうことも多いです。
不安な方は無理せず、行政書士や税理士など専門家の力を借りるのも一つの手です。
>相続サポートセンターへのお問い合わせはこちら
[監修]佐藤 智春
【代表 税理士・行政書士】
経歴:仙台大原簿記専門学校卒業後、宮城県で最年少税理士登録。16年以上の実務経験を持ち相続専門税理士として数多くの案件を手がける。
(2023年相続税申告実績/179件)
税理士佐藤智春は税理士の日(2月23日)に産まれた40歳です(2024年現在)。若いからこそ、二次相続はもちろん、三次相続までサポートできます。多くの案件をこなしているからこそ三次相続まで見据えた遺産の分け方を提案しています。